吉田松陰の妹・杉文(楫取美和子)の物語|2015年大河ドラマ「花燃ゆ」

松陰、海外へ密航を試みる

黒船に衝撃を受ける

 10年間の他国修行が許された吉田松陰は、関西遊学を経て、嘉永6年(1853年)5月24日に再び江戸に戻りました。その直後6月3日、マシュー・ペリーが浦賀に来航すると、佐久間象山と黒船を視察し、その最新文化に衝撃を受けます。それから松陰は象山のもとに足繁く通うようになり、海外事情や西洋兵学を熱心に勉強します。象山は塾生を海外へ留学させる計画を幕府に上奏します。そのなかには松陰も含まれていました。しかし、幕府は動かず、計画は頓挫します。西洋の先進文明に心を打たれていた松陰は落胆しますが、ならばと密航を思い立ちます。これに象山も賛成しました。

 

ロシア軍艦への乗り込みを企てる

 まず松陰は前年に長崎に来航したプチャーチンのロシア軍艦に狙いをつけます。同郷の従者・金子重之(かねこしげのすけ)と乗り込もうとしますが、ちょうどヨーロッパで勃発したクリミア戦争にイギリスが参戦したことから同艦が予定より早く出航してしまい、松陰は接触すらできず、失敗に終わりました。

 

アメリカ艦隊に密航を直談判する

 安政元年(1854年)1月、ペリーが日米和親条約締結のために再来すると、再び密航を計画します。重之とともに下田に停泊中のポーハタン号に小舟で近づき、乗船してアメリカ側に密航を直談判します。しかし、アメリカ側に拒否されてしまいます。日米和親条約が締結したばかりなのに、問題を起こしたくなかったのだといわれています。

 

松陰の自首

 密航が失敗に終わるとまもなく、松陰と重之は下田町隣村の名主に自首します。すぐに自首したのは、ポーハタン号に近づいた際に乗り捨てた小舟が幕府に見つかれば、証拠として捜査が進み、いずれにせよすぐに捕まるだろうと考えたのでしょう。下田で取り調べを受けた後、江戸の伝馬町獄に投じられます。この密航事件に加担したとして佐久間象山も投獄されました。松陰は死罪まで覚悟しますが、幕府の判決は実家での謹慎と意外に軽いものでした。実はこの時、幕府の一部では象山と松陰を死罪にしようという動きもあったそうですが、それに老中首座の阿部正弘が反対したといわれています。
 安政元年(1854年)10月24日、萩に送還された松陰は、士分を収容する野山獄に幽囚されます。藩の対応が幕府の判決より厳しくなったのは、藩が幕府に遠慮したからだといわれています。足軽身分の金子重之は百姓牢の岩倉獄に幽囚され、翌年2月獄中で病死しました。

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